レーダーを用いた睡眠時の心拍・呼吸の非接触センシング
2021年7月にアメリカの連邦通信委員会(FCC)がAmazonにレーダーを用いて睡眠をモニタリングするデバイスの製造許可を与えた[1]。デバイスの詳細について同社は回答していないが...
世の中にはレーダーを用いることで睡眠時の心拍や呼吸のデータを取得できる技術は多数報告されている。そこで本記事では、すでに報告されているレーダーを用いたセンシング技術の概要を紹介する。
センシング技術の原理
心拍や呼吸は心臓や肺が動くことにより生じる振動であるため、その動きの変化を圧力や光を用いて測定する方法がある。しかし、これらの方法では、一般的には人体に接触して測定を行う必要があり、装着の不快感といった課題がある。そこでレーダー、つまり電波を用いると、遠くからでも非接触で測定が行え、どんな人でも不快感なく使用しやすいため、睡眠時におけるセンシングに活用されている。
レーダーを用いた測定では、人体に当たり、反射してくる電波を計測することにより、心拍・呼吸のデータが得られる。その測定原理には高校の物理で習うドップラー効果が活用されている。電波は波であり、心臓や肺などの動きで揺れている人体に当たると、反射する際に、その波の周期に揺らぎが生じる。そのため、反射波の中には、人体の振動の情報が入っているため、解析することで心拍や呼吸のデータを取得できる。
技術内容
この技術内容は電波の波長で大きく2つに分けることができる。心拍や呼吸の測定には、24GHz帯域のマイクロ波や60GHz帯域のミリ波といった周波数帯域の電波が使われる事が多い。電波の使用方法は電波法により定められているため、自由にどんな電波でも使えるわけではない。そのため、電波センサーとしての使用が許可されている24GHzや60GHzがよく用いられている。マイクロ波の電波の制御は比較的容易であるため、技術的な応用が進んでおり、シャープなどの企業がセンサーの販売を行っている[2]。しかし、波長が長いため、僅かな変化は捉えにくく、心拍のセンシング精度を向上することが難しい。一方で、ミリ波は波長が短いため、心拍のような僅かな振動でも検出するのには適している。しかし、直進性が高く、測定できる範囲が限定されてしまうため、電波の放射方向を制御する技術が必要となる。パナソニックは高い精度を出せることや、直進性を生かして複数の人が近くにいても、センシング対象を選択できることから、ミリ波の活用に力を入れており、実証実験を行っている[3, 4]。技術が発展すれば、より高周波数帯域の79GHzを活用することもできるようにもなると期待されている。
ベッドサイドでの測定実験風景[6]
IEEE JOURNAL OF ELECTROMAGNETICS, RF, AND MICROWAVES IN MEDICINE AND BIOLOGY, VOL.4, NO.3, P.208
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これらの技術は基本的には胸元の動きを捉える原理[5, 6]であるため、デバイスは天井に設置することが多い。そのため、横向きの寝相への精度は悪くなることが多いため、介護施設などで、寝返りなどの動きが少ない対象者に活用される事が多い。Amazonが開発するデバイスが、一般的な消費者が購入して使用しやすいものだとすると、枕元に置き、横からのセンシングが行えるように、特殊な電波解析技術も必要になると考えられる。
参考サイト・文献のリンク
[1] https://www.businessinsider.jp/post-238585
[2] https://corporate.jp.sharp/news/150625-a.pdf
[3] https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1601/29/news045.html
[4] https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/ptj/pdf/v6301/p0108.pdf
[5]https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/259167/1/transcomj.2020API0001.pdf
[6]https://ieeexplore.ieee.org/document/8879576